マンションの排水管は、普段あまり意識することのないインフラです。しかし年数を重ねるほど劣化は進み、ある日突然、逆流事故や漏水が生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。見えない排水管に、そろそろ向き合いませんか。
排水管が老朽化しているサインとは?
築年数を重ねたマンションでは、排水管の老朽化サインが現れ始めます。水の流れが以前より悪くなった、異音や詰まりが気になる、漏水事故の報告が増えてきた――そうした小さな変化は、配管からの警告かもしれません。マンションの築年数が30〜40年を超えてきたら、見えない排水管の状態にも目を向けたいところです。
排水管が老朽化しているサイン

内視鏡調査でわかる配管内部の劣化
排水管の劣化は、外から見ただけではわかりません。そこで行われるのが、内視鏡カメラなどを用いた劣化診断です。調査では、雑排水管や汚水管、通気管、枝管継手などの内部を確認します。そこで、錆の発生や詰まりの有無などを把握し、劣化の進行状況を見極めていきます。より詳細に調査するには、排水管の一部を切り出して半割にして配管の管厚がどの程度残っているか調査をします(抜管調査)。こうした結果をもとに、改修の必要性や時期を判断します。
錆の発生(雑排水管)

錆の発生(汚水管)

排水管設備の更新(全交換)とは?
排水管には、汚水管(トイレの水を流す管)、雑排水管(洗面や台所などの水を流す管)、通気管(排水を流れやすくするために設ける空気が通る管)があります。排水管設備の更新とは、こうした老朽化した金属製の排水管を樹脂管に取り替えることです。これにより、錆や腐食による漏水リスクの低減につながります。図は床スラブの上に枝管を通す床上配管の例ですが、これ以外に下階住戸の天井に枝管を通す天井配管の場合もあります。
排水管の種類
(汚水管/雑排水管/伸頂通気管/枝管)

金属製の排水管と樹脂製の排水管は
どう違う?
金属製の排水管は、長年の使用によって錆や腐食が進みやすく、漏水や詰まりの原因になることがあります。一方、樹脂製の排水管は錆びにくく、耐火性能を備えた製品もあり、現在の更新工事で広く採用されています。管材を新しくすることで、今後の安心感が高まり、耐用年数の延伸も期待できます。
鋳鉄管

樹脂管(耐火硬質ポリ塩化ビニル管)

劣化診断から工事完了までの流れ
排水設備の更新は、トラブルが起きてからすぐに工事を始められるとは限りません。まずは調査をして劣化の状態を確かめ、その結果をもとに工事内容や資金計画を検討します。そのうえで、居住者への説明を重ねながら段階的に準備を進めていきます。暮らしへの影響にも配慮しつつ、管理組合と居住者が力を合わせて完了まで進めていく、マンション全体の大切な取り組みです。
更新までのプロセス

排水管更新を実現したマンション
ファミリープラザ朝潮橋
所在地
大阪市港区
竣工
1984年
総戸数
277戸

築40年を超えたファミリープラザ朝潮橋では、老朽化した排水管による漏水事故が年間複数件発生していました。排水設備更新のために必要な工事費はかなりの金額にのぼりますが、調査結果をもとに改修の必要性を確認し、資金計画や居住者への説明を重ねながら、更新工事の実施へと進みました。
融資の活用と修繕積立金の見直し
工事費の確保にあたっては、修繕積立金だけで賄うのではなく、融資の活用も検討されました。一方で、借入金の返済と将来の大規模修繕への備えを合わせて考えると、修繕積立金の見直しも避けられない状況でした。従来の積立金水準は、同規模マンションの平均を大きく下回っていたためです。段階的な値上げ案も検討されましたが、先送りは将来の負担増につながるとの判断から、一括での改定を実施。説明会では戸惑いや反対の声もありましたが、データを示しながら丁寧に説明を重ね、最終的に総会承認へとつなげました。
4日間の在宅対応を伴う宅内工事
専有部内の工事では、全戸で4日間の在宅対応が必要となりました。工事期間中は住戸内で配管の更新や開口部の復旧を行うため、居住者の協力が欠かせません。説明会では、工事の必要性に加えて、工事中の生活への影響や注意点も共有されました。実際の宅内工事は、配管の更新から内装復旧まで、数日かけて段階的に進められます。
腐食や劣化が進んだ金属製配管を、
耐火性能を備えた樹脂管へ更新。
宅内工事の流れ
1日目:配管が通る箇所の開口作業
トイレの壁やキッチンの壁など、配管が通っている箇所を開口します。開口場所はマンションや系統・間取りによって異なるため、事前に調査を行い、住戸ごとに確認したうえで工事を進めました。

2日目:既存排水管の撤去と新設
既存の排水管を撤去し、新しい排水管を設置します。老朽化した配管を新しい配管へ取り替える更新工事の中心となる工程で、既存排水管撤去の際に本工事で最も大きな音が発生しています。
3日目:開口部の復旧開始
配管工事が完了した箇所から、壁や床など開口部の復旧作業を始めます。下地を整えながら、元の状態に戻すための準備を進めます。
4日目:内装の復旧・片付け・清掃
最後に内装を復旧し、片付けと清掃を行って工事完了となります。開口した部分を丁寧に戻し、住まいをできるだけ元の状態に近づけます。

工事中の生活への影響
工事には排水規制が伴うため、作業時間中の8:30〜18:00は水を使用することができません。そのため、敷地内には男女別の仮設トイレを複数設置し、必要に応じてポータブルトイレを貸し出すなどして対応します。暮らしに不便が生じる工事ではありますが、管理組合と居住者が協力しながら、マンション一丸となって乗り越えていくことが大切になります。
工事完了後に得られた安心
工事完了後は、それまでたびたび発生していた漏水などのトラブルが解消され、住民の不安も大きく和らぎました。目に見えない排水設備を計画的に更新したことで、日々の暮らしの安心感が高まり、マンション全体としても大きな節目となる取り組みになりました。
居住者の理解を得るための工夫
このマンションの工事では、住民の理解を得るために、丁寧な説明と個別対応が重ねられました。チラシ1枚で案内するのではなく、全戸にアポイントを取り、アンケートを実施したうえで、戸別訪問により工事内容や日程を説明。さらに、仕事などで立ち会いが難しい場合には、親族や外部の方に対応を依頼するなど、個別事情に応じた調整も行われました。住民にとって負担の大きい工事だからこそ、一律の案内で済ませるのではなく、理事会と管理会社が同じ方向を向いて説明を積み重ねたことが、合意形成の大きな支えとなったようです。
まとめ
マンションの排水管は、普段あまり意識することのない設備ですが、築年数を重ねるほど劣化は進みます。見えないからこそ、漏水や逆流といったトラブルが起きる前に、調査で現状を把握し、計画的な更新につなげることが大切です。今回の事例は、資金計画の検討、居住者への丁寧な説明、工事中の協力体制づくりを重ねながら、マンション全体で更新工事を進めた好例といえるでしょう。