「日本ならではの特色を備えた」国産ウイスキーが、昨今世界的な評価を受けています。今回は、清酒「菊盛」や「常陸野ネストビール」でも知られる、茨城県の木内酒造さんの見学ツアーをレポートします。ウイスキーづくりのプロに聞いた、おいしい飲み方と合わせてご覧ください。
生産者の解説が聞ける
国内の蒸留所のなかには、見学ツアーや体験プログラムを開催しているところがあります。生産者さんの解説を聞きながらウイスキーを身近に感じることができるのは、大きな魅力といえるでしょう。
国内の蒸留所は120ヵ所以上
2023 年に100周年を迎えた日本のウイスキー造り。ここ数年の世界的なクラフトウイスキーブームで新規参入が急増し、大手酒造メーカーを含めた2025年の国内の蒸留所数は、計画中のものも含めると120カ所を超えるといわれています。
こだわりの味を楽しむ
多くの見学ツアーでは、試飲(テイスティング)が用意されています。製造過程で趣向が凝らされたこだわりの味を現地で楽しめるのは格別なひとときです。
生産者の解説が聞ける
八郷蒸溜所で蒸留した原酒のみをバーボン樽、ラム樽、シェリー樽で熟成してブレンドした「日の丸ウイスキー Signature 1823」。今年2 月のWorld Whiskies Awardsで金賞を受賞。
国際的なコンクールで受賞が続く日本のウイスキー。その人気の高まりとともに、外国産の原酒のみを使ってジャパニーズウイスキーとして販売される商品も増えました。日本洋酒酒造組合は、消費者の誤解を招くことのないよう、また国産ウイスキーの品質を守るため、2021年 に「ジャパニーズウイスキー」として表示・販売するための自主的な基準(下記は一例)を定めています。
所要時間60分
破砕工程
原料となる地元の穀物(麦、米など)を細かく粉砕する
糖化工程
麦芽のでんぷん質を酵素の力で糖分に変える
発酵工程
麦汁に酵母を加えて発酵させる
蒸留工程
モロミを蒸留してアルコール純度を高める
熟成工程
ウイスキーの原酒を樽に入れて熟成させる
テイスティング
見学に伺ったのはこちら♪
木内酒造・八郷蒸留所
創業は1823年。清酒「菊盛」や「常陸野ネストビール」でも知られる茨城県の木内酒造。長年にわたり培った技術と知識は、2016年から取り組むクラフトウイスキー(小規模の蒸溜所で造られる少量生産のウイスキー)造りにも生かされています。筑波山の麓・石岡市の公民館を改装して2020年に新設された蒸留拠点「八郷蒸溜所」では、数々の国際的なコンテストで受賞歴を誇るブランド「日の丸ウイスキー」の奥深い製造工程を見学できます。
STEP 01
破砕工程
原材料の大麦は発芽させると酵素が生まれます。ここでは不純物を取り除いた麦芽を細かく粉砕します。
麦芽の皮はろ過する際にフィルターの役割もする。中のでんぷんがたくさんの糖分になるように細かく砕く重要な工程。八郷蒸溜所では地元の小麦や日本酒に使う酒米も使っている。
STEP 02
糖化工程
砕かれた麦芽は温水と混ぜられ糖化槽からろ過槽に送られます。糖化槽で十分な糖分を得た液体をろ過して麦汁を造ります。
奥の糖化槽から手前のろ過槽へ。右写真左のカップはろ過槽内のイメージ。沈殿している麦芽の殻をろ過して右の麦汁を造る。
STEP 03
発酵工程
麦汁と酵母を合わせて 1 週間ほど発酵させ、アルコール度数7%のモロミを造ります。タンクの材質や酵母の種類も変えて多様な味わいを生み出します。
酵母は一般的なものとオリジナルの2種を使用。(写真左)屋外にはステンレス製のタンクも備える。(写真右)右はアカシアの木、左はオークの木を使った木製のタンク。
STEP 04
蒸留工程
銅製のポットスチルと呼ばれる蒸留釜でアルコールだけを抽出します。2つの蒸留釜で2回蒸留してウイスキーの原酒を造ります。
手前の2つの釜は1回ごとに蒸留する単式蒸留器。中央奥に見える円柱のものは連続的に蒸留ができる連続式蒸留器。
写真左はモロミを1度蒸留したアルコール度数25%の原酒。よく見ないと分からないほどの微細な不純物が浮かんでいる。これを2度目の蒸留で除き、右の無色透明・アルコール度数70%の原酒が誕生する。
STEP 05
熟成工程
熟成庫ではバーボン樽やシェリー樽など、おもに海外から仕入れた、元々は違うお酒が入っていた木樽を使って熟成を進めています。
左側の樽は両端の鏡板をさくらの木に替えたオリジナルのさくら樽。熟成庫では最低3年寝かせることで、香りやまろやかさなどの複雑な変化がもたらされる。
スコットランドの蒸溜所から輸入したスコッチウイスキーの樽。
アメリカのケンタッキー州から輸入したバーボン樽。
イタリアのワイナリーから輸入したシェリー樽。
熟成に用いた樽の種類や熟成期間により、ウイスキーはさまざまに色づき味わいを変える。
天使の分け前
写真のラインの間が1年間に減った量。天使の分け前は年に2〜3%といわれている。
樽熟成の間、原酒は少しずつ蒸発して減っていきます。この現象はおいしいウイスキーができあがる過程で天使が味見をした「天使の分け前」の愛称として、長きにわたりウイスキー職人たちから親しまれてきました。
STEP 06
テイスティング
見学ツアーの最後を飾るのは、蒸留所に併設されたビジターセンターでのテイスティング。よりウイスキーをおいしく味わうためのテイスティング方法も教えてもらえます。
さくらカスクNo.9007
アルコール度数48%
プラムリキュールカスク フィニッシュNo.2356
アルコール度数48%
バーボンバレル No.2696
アルコール度数48%
用語解説
モルトウイスキー
大麦麦芽(モルト)だけが原料。発酵後、単式蒸留器で2回蒸留して熟成する。
シングルモルトウイスキー
モルトウイスキーのうち、単一の蒸留所の原酒のみを瓶詰めしたもの。
グレーンウイスキー
トウモロコシなどの穀物も原材料に使い、連続式蒸留器で蒸留したもの。
ブレンデッドウイスキー
モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたもの。
歴史を感じる珠玉のウイスキー造りを楽しめる、国内有数の蒸留所をご紹介します。
ニセコ蒸溜所(北海道虻田郡ニセコ町)
すてきテラス限定
八海醸造の関連企業が2020年に新設。販売中のクラフトジンは世界の品評会で高評価を獲得。
ニセコ蒸溜所初のシングルモルトウイスキーは現在熟成中
長濱蒸溜所(滋賀県長浜市)
すてきテラス限定
長濱浪漫ビールの敷地内に2016年に開設。少量生産にこだわる日本最小クラスの蒸留所として知られる。
アマハガン エディションNo.1
SAKURAO DISTILLERY (広島県廿日市市)
2017年、瀬戸内を望む海辺に新設。100年を超す、蒸留技術を生かした生産を行う。
シングルモルトジャパニーズ ウイスキー桜尾
マルス津貫蒸溜所 (鹿児島県南さつま市)
本坊酒造のウイスキー蒸留所。写真は本坊家の旧邸宅を改装したカフェバー&ショップ「寶常(ほうじょう)」。
シングルモルト津貫 2025 エディション
簡単につくれるコツをプロが伝授!
ウイスキーの“おいしい”飲み方
基本のロック、ハイボールから爽やかなカクテルまで、宅飲みのレベルを上げるウイスキーの楽しみ方を、木内酒造さんに教えてもらいました。
共通のPOINT
01
オン・ザ・ロックス
材 料
つくり方
1.
グラスに氷を入れ、ウイスキーを注ぎ、マドラーなどでかき混ぜる。
POINT
氷が溶けることで味の変化を楽しめるほか、冷やすことで度数を和らげ、飲みやすくなる効果も。
02
ウイスキー・ミスト
材 料
つくり方
1.
かき氷器でクラッシュアイスをつくり、グラスにたっぷり入れる
2.
ウイスキーを注ぐ
3.
マドラーなどで数回転混ぜる
POINT
クラッシュアイスはかき氷器を使うと簡単につくれる。ウイスキーの飲み方のなかでもいちばん冷えるのが早いので、気温が高い時期におすすめ。
03
ハイボール
材 料
つくり方
1.
グラスに氷を入れ、マドラーなどで氷をかき混ぜて、グラスを霜がつくまでよく冷やす
2.
風味を損なわないように、溶けた水を捨てる。減った分の氷は足してもよい
3.
ウイスキーを注ぐ
4.
氷に直接あたらないように炭酸水を注ぐ
5.
マドラーなどでそこの氷を持ち上げて、1回転だけ混ぜる
POINT
分量の目安はウイスキー1に対し、炭酸水3〜4程度。炭酸が抜けないように、かき混ぜすぎないこと。
04
ハイボール・フロート
材 料
つくり方
1.
冷蔵庫で冷やしておいたグラスに氷を入れ、炭酸水を注ぐ
2.
マドラーなどを伝わせるようにして、ウイスキーが直接氷に当たらないようにやさしく注ぐ。
05
マミー・テイラー
材 料
つくり方
1.
ライム(レモン)を半分に切り、数枚スライスしておく。残りは絞ってジュースをつくる
2.
冷蔵庫で冷やしておいたグラスに氷を入れ、ウイスキーを注ぐ
3.
ライム(レモン)ジュースを注ぎ、数回転かき混ぜる
4.
ジンジャエールでグラスを満たし、数回転かき混ぜる
5.
ライム(レモン)スライスを入れる
POINT
マミー・テイラーはスコッチウイスキーをジンジャエールで割るカクテル。ライム(レモン)ジュースは市販のもので代用できる。ジンジャエールのピリッとした風味をより楽しみたい場合は辛口をチョイス。
ウイスキーに合うおつまみは?
八郷蒸留所ビジターセンターで提供中のガトーショコラ
ウイスキーには飲んだ余韻を味わいながら食べられる、オリーブやナッツ、チョコレートやドライフルーツが相性◎。好みのウイスキーと甘み・苦み・塩味・酸味などを変えた好みのおつまみで、お気に入りのペアリングを探してみましょう。