香り高い新そばが実る季節になりました。粉と水を合わせて、延して、切る——。試行錯誤の先にあるのは、自分だけの味。打ちたての蕎麦を囲めば、食卓は家族の笑顔でにぎわいます。わが家で手打ち蕎麦、始めてみませんか。
専門店に聞く「基本の材料と道具」

この先生に聞きました
竹むら漆器店
吉川さん
「最初は形がいびつでも大丈夫。まずはご自身の手で打つ蕎麦のおいしさを楽しみながら、じっくりと上達していってください」

吉川さん「二八蕎麦の材料はたったの3つ。だからこそ、粉選びが仕上がりを左右します。初心者にまずおすすめなのが、蕎麦粉とつなぎ粉(小麦粉)が配合済みの「二八のミックス粉」。つなぎが入っているぶん生地が破れにくく、格段にまとめやすくなります。
なお、材料とは別に「打ち粉」も用意しましょう。これは、蕎麦粉を挽くときに最初に出る内層粉(御前粉)という専用の粉で、サラサラとして粘りがなく、蕎麦どうしのくっつきを防ぎます。小麦粉や普通の蕎麦粉では代用できないので、専用のものを用意してください」

吉川さん「初めての方が扱いやすい300g(2〜3人前)用なら、専門店のセットで2万円前後をイメージしておくとよいでしょう。一方、個別に揃えるのが向いているのは、『自分だけの味やスタイルを道具から追求したい』というこだわり派。包丁の重さや、のし棒の木肌にまでこだわって、1点ずつ納得のいく逸品を選ぶ楽しさは個別ならでは。『自分好みの探究』を、道具選びの段階から楽しみたい方におすすめですよ」
【道具の選び方 早見表】

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買い足しいらずですぐ打てる
「竹むら」さんが扱う、初心者向けの手打ちそばセット。こね鉢からのし棒、こま板、蕎麦切り包丁まで、必要な道具がひと揃い。約3人前(300g)まで打てて、これひとつで明日から始められます。
Information
「竹むら漆器店(かっぱ橋 竹むら)」
東京都台東区元浅草4-10-8
営業時間:平日9:00 〜17:30 /土曜 9:30 〜17:30(日祝定休)
昭和17年創業。「味覚は器から」をモットーに、家庭用の手打ち蕎麦道具からプロ御用達の品まで、厳選素材と熟練の職人技で製作。「江戸ソバリエ」認定店。


味わいが深まる蕎麦のおはなし
打つ前に、少しだけ蕎麦のお話を。知っておくと、一杯がもっとおいしく感じられます。
収穫前の蕎麦の実
「蕎麦切り」は江戸のファストフード
もともと蕎麦は、粉を湯で練った「蕎麦がき」で食べるのが一般的だったといわれます。細長い麺の蕎麦は「蕎麦切り」と呼ばれ、広まったのは江戸時代。屋台で手軽に食べられ、せっかちな江戸っ子に大人気でした。
年越しそばの習慣も、この頃に定着したといわれています。
ちなみに蕎麦の色は挽き方しだい。実の中心を挽くほど白く上品な味わいになり、殻に近い部分ほど黒く、香りも力強い傾向があります。
二八(にはち)と十割(じゅうわり)、何が違う?
蕎麦粉だけで打つのが「十割」、小麦粉を2割つなぎに使うのが「二八」。十割は香りが強い反面、つながりにくく上級者向け。二八はのどごしがよく打ちやすいので、初めての手打ちにおすすめです。
「良い蕎麦」は“三たて”で決まる
おいしさの条件は「挽きたて・打ちたて・茹でたて」の“三たて”。蕎麦は香りが飛びやすく、三つがそろった打ちたては格別です。自分で打つ最大のごちそうは、これを家庭で味わえることです。
“水回し”で決まる、蕎麦打ちの4工程
次に、蕎麦屋さんの体験教室へ。教わるのは、この道49年の店主さん。二八の生地を、食べられる蕎麦になるまでひと通り教えてくれます。蕎麦打ちの工程は、大きく分けて「水回し・こね・延し・畳み/切り」の4つ。なかでも仕上がりを大きく左右するのが、最初の水回しです。まずはここから、順に見ていきましょう。


この先生に習いました
「手打ち蕎麦やなか」
坂井さんご夫婦
水回し
指先で粉全体に水を行き渡らせる。水は数回に分けて少しずつが基本。

手のひらに粉がつかないように回す。パン粉状→そぼろ状→コロコロした粒と、5、6個の塊になったらひとまとめにする。


両手の指を熊手のように広げ、円を描くように動かしながら、手早く混ぜるのがコツ。水の量は、蕎麦粉とつなぎ粉を合わせた量の40〜45%が目安です。
生地がポロポロとまとまらないときは、水分が足りていないサイン。手を水で濡らして少しずつ足す「足し水」で調整しながら、軽くまとめます。
こね
体重を使って練り、なめらかにまとめる。表面が光ればこね上がり。

手のひらの付け根を生地に当て、上体の重みをぐっとのせて前へ押し出す。


ポイントは足の運び。後ろ足のかかとを軸に、舟をこぐように体を前後に揺らすと、腕力に頼らず自然に体重が移り、少ない力でむらなくこねられます。
押しては戻し、生地の向きを変えながらリズミカルに。表面がつやめき、耳たぶくらいのやわらかさになったらこね上がりです。菊練りとへそ出しを経て円錐形にし、つぶして平らにして延しに入ります。
菊練りとへそ出し

こね上がったら、生地を菊の花びらのように折りたたむ「菊練り」(写真左)で空気を抜き、円錐形に整えます(へそ出し/写真右)。
延し
打ち粉をふり、生地を薄く均一にのばす。丸から四角へと形を整える。

まずは「丸出し」。手のひら全体でのし棒に体重を軽くのせ、生地を回しながら中心から外へ転がし、大きく薄い円にのばす。

次に「四つ出し」。生地を麺棒に巻いて勢いよく転がし、遠心力を使って台に叩き付け、四辺それぞれに角を出して手早く四角に整える。四角にすることで、麺の長さも太さも揃う。


仕上げは全体を同じ厚さになるまでのばす「本延し」。厚みは端まで均一にするのがコツ。薄くしすぎると、切ったときに切れやすくなります。
畳み/切り
打ち粉をふってたたみ、こま板を当てて端から一定の幅で切る。切り幅がそのまま麺の太さに。

包丁はこま板に沿わせて真っすぐにおろし、少し前に滑らせる。刃を内側へ傾けて、切るたびにこま板を少しずつずらす。



のした生地に打ち粉をたっぷりふり、くっつかないように数回折りたたみます。たたんだ生地にこま板をのせ、包丁をまっすぐ下ろして切り、こま板を切り幅分ずらしてまた切る——。この繰り返しです。
このずらす幅が、そのまま麺の太さになります。細く仕上げるならこま板を送る幅を小さく。包丁は前に押さず真下に落とすように動かすと、太さが揃います。リズムよく同じ幅で切るのがポイントです。

ゆで方のコツ
おいしくゆでる鉄則は、大きな鍋にたっぷりの湯を沸かすこと。目安は、蕎麦100gに対して湯3リットル以上です。しっかり沸騰したら、蕎麦をパラパラとほぐしながら入れましょう。箸で激しくかき混ぜると切れてしまうので、湯の対流にまかせて優しく。ゆで時間は太さにもよりますが、1分〜1分半ほどが目安です。

ゆで上がったらすぐ氷水に取り、一気に冷やします。表面のぬめりを取るように優しく「もみ洗い」すると、麺の角が立ち、キュッとしたコシが生まれます。

\いざ、実食!/

実食は「手打ち蕎麦やなか」の体験Bコース。お手前蕎麦に、海老の天ぷら、手作りの
そばとうふ・そばあいすが付いた、ぜいたくなプランです。

水回しから切りまで、悪戦苦闘の末に打ち上げた一枚。つゆにくぐらせ、いよいよひと口……。のどごしのなめらかさと、鼻に抜ける香りに、思わず笑みがこぼれました。形は少しいびつでも、自分で打った蕎麦は驚くほどおいしい。「これが手打ちか」と、大満足の一杯です。
夢中で粉と向き合う時間も打ちたてを味わう幸せも、手打ちするからこそ。不器用な私でも、ここまでできました。次の休日はぜひわが家で手打ち蕎麦、始めてみませんか。
Information
「手打ち蕎麦やなか」
東京都台東区谷中1-1-18
営業時間:11:30〜14:30/17:30 〜19:30
※土日祝は昼のみ営業(14:30閉店)
※売り切れ次第閉店。夜の営業はそば打ち体験教室の開催による貸し切り・時間変更あり。

初めての蕎麦打ちを楽しむためのQ&A
切りのちょっとしたコツから、打ったあとの楽しみ方まで。初めてなら誰もが迷う疑問に、専門店がお答えします。
※初めてお蕎麦を食べるお子さまやご友人がいる場合は、事前にそばアレルギーがないかを必ず確認してください。

切ると太さがバラバラに…

原因はおもに2つ。包丁をこま板に沿わせて真っすぐにおろせていないか、こま板の傾け方が一定でないかです。コツは、切るたびにこま板を蕎麦1本分だけ「カタン」と一定のリズムで傾け、同じ幅を保つこと。
ちなみに、切った蕎麦がくっつくのは打ち粉不足のサインなので、折りたたむときに重なる面へ「白くなるまで」たっぷり振ってください(打ち粉は茹でれば落ちます)。


つい打ちすぎた…
保存や冷凍方法は?

冷蔵なら密閉容器にキッチンペーパーを敷き、蕎麦が重ならないように並べて、翌日中には食べきってください。麺がくっつかないよう、軽く打ち粉をまぶしておくと安心です。
冷凍は1 人前ずつに分け、ラップでぴっちり包んでジッパー付きの密閉袋へ。この状態で2週間〜1か月ほど保存できます。ゆでるときのコツは、解凍せずに「凍ったまま」熱湯へ入れること。解凍すると水分が出て、ドロドロになってしまいます。
なお、余った蕎麦粉は密閉袋で空気を抜き、冷蔵庫(野菜室)で保管して、風味が落ちる前に早めに使い切りましょう。


打ちたては
どう食べるのがいちばんですか?

まずは「もり」で、最初の数本はつゆをつけずにそのまま。新そばの香りと甘みを堪能したら、江戸前のつゆへ。薬味は香りを邪魔しない辛味大根・すだち・本わさびを少しだけ。


ゆで汁は
捨ててしまってもいいの?

ぜひ「蕎麦湯」を楽しんでください。打った蕎麦のゆで汁には打ち粉(蕎麦粉100%)が溶け出し、市販のものより驚くほど濃厚でとろみのある一杯になります。定番は、残った蕎麦つゆに注いで割る飲み方。うまみと甘みが溶け合い、食後にほっとします。
大人には焼酎の「蕎麦湯割り」もおすすめ。香ばしい湯気が立ちのぼり、晩酌が趣深くなります。打った人だけの、締めのごほうびです。


蕎麦つゆって家でもつくれる?

意外なほど簡単につくれます。まず基本の「かえし」を、醤油5・みりん1・砂糖1の割合で。みりんのアルコールを飛ばしてから砂糖と醤油を加え、煮立たせない程度に温めて冷ますだけです。数日寝かせるとまろやかになります。
蕎麦につける「もりつゆ」は、このかえしを出汁で1対3〜4に割るのが黄金比。
温かい「かけつゆ」なら1対7〜8です。出汁は厚削りの鰹節で濃いめに引くのが、おいしく仕上げるいちばんのコツですよ。

ごまだれ(もり蕎麦用)のつくり方

濃厚でコクのあるごまだれは、打ちたての力強い蕎麦の風味と相性が抜群。
市販の練りごまと蕎麦つゆがあれば、驚くほど簡単に手づくりできます。
ごまだれ(もり蕎麦用)
材 料
2〜3人分
つくり方

ボウルに白練りごまを入れ、蕎麦つゆを少しずつ加えてよく混ぜる。


その都度よく混ぜてなめらかにする。


器に入れ、お好みですりごまを足す。


そばつゆは一気に入れると分離するので、必ず少量ずつ。ダマにならないよう、丁寧になじませるのが失敗しないコツです。ベースの「蕎麦つゆ(もりつゆ)」は、Q&Aで紹介した自家製かえし+出汁で作ったものを使うと、より本格的な味わいに。