「お風呂」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
「あったかい湯船」、「癒し」、「疲れをとる場所」……日本人にとってお風呂は「リラックスするところ」という印象が一般的ではないでしょうか。
ですが、欧米では「お風呂」は単に「汚れを落とすところ」と、とらえられていることをご存じでしょうか?
例えば、フランスやイギリスなどのヨーロッパ諸国。広いバスルームに浴槽がぽつんと置かれているのが一般的です。浴槽もなくシャワーだけの場合も。
そもそも、高温多湿な日本と違って乾燥しているヨーロッパ。あまり汗をかかず、毎日体を洗う必要がないため、お風呂はそんなに重視されていないのだとか。
フランスで香水が発達したのは、週に2回くらいしかお風呂に入らないので体臭をごまかすため……という話まであるほどです。
あのサウナで有名な北欧でさえ、あるのは「水風呂」と「シャワー」で、いわゆる「浸かってリラックスする目的」の浴槽は備えていません。
そんな欧米と日本のお風呂の違いはずばり「洗い場がないこと」です。
映画「プリティウーマン」でジュリア・ロバーツが浴槽を泡だらけにする入浴シーンは有名ですね。あれを見て「こんなに浴槽を泡だらけにしてどうすんだ?」と思った人は多いはず。
それもそのはず、欧米では浴槽の中で体を洗います。
まずは浴槽にお湯をためて(泡を作り)しばし浸かる。(日本のように長時間ではない)→そのまま体を洗う。→お湯を抜いて、最後はシャワーで洗い流す……という手順が一般的。それも泡が残っていてもあまり気にしない? タオルでふき取ってしまう人が多いのです!
しかも多くの場合は、お湯すらためず、ダイレクトにシャワーで洗って流すのみ。浴槽は単に「お湯を受ける器」状態で、完璧に「汚れを落とすためだけの場所」です。今どきは“Walk-in-bathroom”といって、シャワーだけで湯船のないお風呂場が人気だそうです。
日本のように、体を流す(洗う)→お湯に浸かってリラックス→洗う→また浸かる……という手順は踏まないのです。
ではなぜ、日本では「洗い場」ができたのか?
諸説ありますが、日本の高温多湿の気候が影響しているようで、日本家屋はとにかく通気性を重視して建てられていて冬は寒い。浴室も寒いので、浴槽は温まるためのものとして機能し、別に体を洗う場所として「洗い場」が設けられたようです。
そうして、「洗う場所」と「温まる場所」と分けられたのち、「温まる場所」は癒しの空間として進化してきたのです。快適さを追求することには貪欲な日本人のこと、様々な趣向を凝らし、世界に誇る「お風呂文化」を築き上げというわけなのです。
さて凝り性の日本人は、浴槽を重視すると同時に、この「洗い場」の快適さもとことん追求してきました。
傾斜や材質を工夫して水はけをよくしたり、浴室暖房を仕込んだり……様々な工夫を凝らしています。
日本のお風呂の起源は6世紀頃と言われ、仏教の教えに基づき「体を清める」目的で、湯に浸かるというより、行水のようなものが主体でした。
その後、安土桃山時代に銭湯が普及しましたが、まだ現在の「風呂」とは違い、足から下をお湯に漬けてリラックスし、蒸気で垢を落とすという、足湯とサウナがミックスしたようなものでした。
肩までお湯に浸かる「据え風呂」が登場したのが江戸時代の初期で、この頃から銭湯でも現在のような湯船を使うようになったということです。
ちなみに、この頃の銭湯は男女混浴が一般的で、明治維新の頃まで続いていたそうです!
一方、ヨーロッパでは、ローマで流行った「公衆浴場」が存在していましたが、この「男女混浴」がキリスト教の教義(快楽を禁ずる)に合わないという理由で禁止され、お風呂文化が途絶えてしまった……ということなのだとか。
日本のお風呂の始まりは仏教で、ヨーロッパのお風呂の衰退はキリスト教……ということで、お風呂の歴史は意外と、和洋どちらも宗教と密接な関係があるようですね!