もうすぐ迎える夏休み。新たな興味や視野を広げることは、お子さまの学びにもピッタリな体験です。さまざまな生きものが活発に活動する、夏の自然を感じに出かけてみませんか?
教えてくれたのは…
仙仁 径さん
(せんに けい)
パルテノン多摩共同事業体学芸員。
99年、東京農業大学農学部造園学科卒業後、
東京都立大学大学院理学研究科を経て現職。専門は植物学。
パルテノン多摩共同事業体学芸員。
99年、東京農業大学農学部造園学科卒業後、
東京都立大学大学院理学研究科を経て現職。専門は植物学。
今回学んだのは…
虫取り
大好きくん
(7歳)
観察した場所
公園 ・雑木林・原っぱ
観察した場所
公園 ・雑木林・原っぱ
写真や図鑑では伝えきれない、五感的な体験ができることがフィールドワークの醍醐味です。生きものは自分の環境に適した場所で育つので、その周りの自然の環境も理解できると、楽しみがさらに広がります。
5種類の植物を見つけられるかな?
「こんな道端は普段なら素通りしてしまうよね。でも、実はここにも5種類の植物が生えているんだ。よく観察して、植物の種類の違いを見つけてみよう」(仙仁先生)
10円玉がピカピカに!?
「このカタバミという植物はヤマトシジミという蝶の幼虫が食べるんだ。
酸性度が高いから、この葉っぱで10円玉を磨くとピカピカになるよ」
(仙仁先生)
大きな樹木の赤ちゃん発見!
「ここに生えているハリギリは、もっと育てば周りと同じように大きな木になるんだ。枝には柔らかいトゲが付いているのがわかるかな」(仙仁先生)
植物観察のポイント
先入観を持たずに、植物が生えている場所に気がつくことが大切です。基本的には花が咲いているか実がなっているときが、その植物の名前も調べやすくなるので観察にはいいポイントです。
より上級者向けとしては、種から花がつき実がなるまでの変化を見届けてみる。植物は形が変化していくので、花の時期しか知らないと、小さい時の姿を見てびっくりすることがあります。決めた植物の変化をずっと見続けるのも立派なフィールドワークです。
また、昆虫が食べたり昆虫に守られたりと、昆虫との相互関係を調べるのも面白いですよ。
「このクズの葉っぱの白いところは、タマムシの仲間の幼虫が住んでいるおうちなんだ。新芽を折ると出てくる汁をこすると、デンプンで指がさらさらするんだよ」(仙仁先生)
昆虫観察のポイント
昆虫にもすごく小さいものから大きなものまで、たくさんの種類がいます。昆虫は植物とは違い動いたりするので、もし、何か捕まえたいものがいる場合は、何を食べてどこに隠れているのかなど、それぞれの生態や行動パターンを調べておくこといいでしょう。
枯れた木や石ころの裏などを隠れ家として利用していたり、餌として食べるものがあったりする場所を探せば、実際に出会う確率もぐんと上がるはずです。
ツチイナゴ
バッタ類は卵で越冬するが、
ツチイナゴは成虫のまま越冬し、
春に活動を再開する。
キタキチョウ
黄色い羽の小型のチョウ。
ハギやネムノキなどの幼虫の
食草の周りでよく見かける。
オカダンゴムシ
落ち葉や石の下に生息。
危険時をはじめ、
暑い夏、乾燥する冬なども
丸くなって身を守る。
「いまはスマホのアプリでも、写真を撮った季節と場所から、AIが生きものの名前を判定してくれるものもあるんだ。さあ、このお花たちの名前を調べてみよう」(仙仁先生)
調べ方のポイント
スマホのカメラを使う「Googleレンズ」のような、手軽なアプリも使ってみましょう。ほかにも、より専門的で精度の高い「Biome(バイオーム )」といったものもあります。ただし、その場で調べるのは意外と大変です。気になるものは写真を撮って、帰宅後に調べてみるのがいいですね。特徴がわかると、図鑑でさらに効率よく調べられますよ。
今回ご協力いただいた仙仁先生に、誰もが楽しめるフィールドワークの世界への入り口として、その魅力を伺いました。
フィールドワークというのは、「実物に出合う、触れ合う、触れる」ということがいちばん重要なことだと思います。私個人の話でいうと、子どものころは昆虫や植物も好きでしたが、実は最初は図鑑から入ったんです。家に図鑑があって毎日眺めていました。
あるとき野外に行って図鑑に載っていたものを見つけたときに、「あっ! これが図鑑に載っていた生き物なんだ」という衝撃を受けました。振り返ってみると、これこそがフィールドワークの重要なポイントだと思うのです。
写真で伝えられることには限界があります。例えば大きさが何センチと書いてあっても、実際に見てみないとサイズ感は分かりませんし、植物にしても昆虫にしても、その質感は写真である程度は伝わりますが、実物に触れないと完全には分からないことが多い。本やインターネットでは伝えきれない情報が、フィールドから得られるというのが大切なことですね。
また、植物は動けないので、自分に合った場所に生えるという形で環境を選んでいます。このように、「生き物は自分に合った環境の中で生きている」ということが、フィールドに行くとよく分かります。それから、視覚以外の情報、聴覚や嗅覚、味覚といった感覚として得られるものも、フィールドに行かないと体験できません。
図鑑に書いてあることがすべてではないんです。図鑑にはある程度の特徴は書いてありますが、スペースの都合上全部を書ききれてはいません。実物を見てこそ、図鑑に書かれていない部分の特徴も分かり、知識が補完されるようになります。
フィールドワークを広く捉えれば、植物が生えていて生き物がいるところであれば観察ができます。マンションのすぐそばでも、壁やレンガの隙間でも観察は始められます。ただ、環境ごとに見られる生き物は違うので、特定の生き物を見たいという具体的な目的があれば、その生き物がいる環境に出かけてみてほしいですね。
夏は早朝や午前中の暑くなる前であれば、植物も成長に勢いがある時期ですし、夏に花が咲く植物もあります。また、昆虫などの動物も活動が活発な時期なので、いろんな生き物を見るにはいい時期のひとつです。昼間の暑さが厳しいので、出かける時間帯には注意しましょう。
フィールドは、さまざまな謎に満ちた空間です。私もある程度学んできて、いまは知識を持って出かけますが、子どものころは本当にそういう知識がなかったから謎だらけでワクワクしました。それでもまだ知らないことを発見して、びっくりすることがあります。例えば、最近「スミレ」の花を細かく分解してみたのですが、おしべが非常に変わった形をしていて驚きました。やはり、ちゃんと見ないといけないんだと実感したところです。
人によって自然のどこに興味を抱くかはさまざまです。人によって見え方や楽しみ方が違ってもいいというのが、フィールドワークの懐の広さだと思います。
パルテノン多摩学芸員と学ぶ
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自然とふれあう、学びの場を提供。
ビオトープでの自然観察の様子
長谷工グループは多摩市と仙仁先生のご協力のもと「いきもの発見in多摩」を毎年開催しています。長谷工テクニカルセンター内のビオトープや近隣の公園で動植物を観察しながら、生物多様性について親子で楽しく学び、人と自然と生きものつなぐ取り組みを今後も続けてまいります。