建物の状況に合わせた補修・修繕・メンテナンスが安心・安全・快適な暮らしを守るポイントです。
進行する三つの劣化
マンションは建物が完成した時点から、少しずつ劣化が進んでいきます。この劣化には主に ①物理的劣化、②社会的劣化、③機能的劣化の三つがあり、それぞれに適切な対応が必要です。これらを大規模修繕工事のタイミングでまとめて対処することで、効率よくコストを抑えながらマンションの価値を維持・向上を実現できます。
① 物理的劣化
建物の構造・仕上や設備が時間とともに傷んでいくことを指します。
② 社会的劣化
時代の変化により、現代のライフスタイルに合わなくなることを指します。
③ 機能的劣化
最新の設備基準と比べて性能が十分でなくなることを指します。
大規模修繕はどんな箇所の工事を行う?
大規模修繕工事で特に重要になるのが物理的劣化に関わるものです。具体的には外壁や屋根、階段、バルコニー、廊下など、建物の外装や防水に関わる箇所の修繕です。
大規模修繕のメインとなる工事内容
仮設工事
建設現場での作業を安全かつ効率的に進めるための設備や施設を一時的に設置する工事で、大きく分けて「共通仮設工事」と「直接仮設工事」の2種類があります。
共通仮設工事
工事全体を円滑に進めるために必要な設備や施設で、現場事務所、仮設トイレ、仮設電気・水道、安全対策設備など。
直接仮設工事
建物の建設作業に直接関わる設備や施設を指します。具体的には以下のようなものがあります。
仮設足場
作業員が高所で作業する
ための足場。
仮囲い
工事現場を囲む
フェンスやシート。
養生
建物や周囲を保護する
ためのシートやボード。
これらの仮設工事は、工事の規模や内容に応じて適切に選ばれ、設置されます。どちらも工事を安全かつ効率的に進めるために欠かせないものです。
下地補修工事
劣化したコンクリート躯体やモルタル部分の補修で、具体的には建物の共用部に生じたひび割れや、コンクリートの爆裂・欠損などを補修します。仕上げ材であるタイルの浮きやひび割れ・欠損なども下地補修工事として行います。
シーリング工事
建物の各所に施工されているシーリング材を打ち替える(施工し直す)工事となります。シーリング材の代表的な対象ヶ所は建具まわり、建物の打ち継ぎ部分や耐震スリット部分など構造上・納まり上で予め設けられた溝の部分を防水性があってゴムのような伸縮性のあるシーリング材が充填してある部分が対象となります。
外壁塗装工事
劣化している外壁面の塗装の塗り替え工事となります。既存の塗装の上に再塗装する上塗りが基本となりますが、既存の塗装面の状況によっては既存の塗料をはがして再塗装することもあります。
鉄部塗装工事
劣化している鉄部等の金属部や樹脂部(竪樋など)、ボード面(隔て板など)等の塗装の塗り替え工事となります。金属部がさびている場合には、錆除去などのケレン作業が品質に大きく影響します。
防水工事
劣化している屋根防水や、開放廊下やベランダの防水(長尺塩ビシート張り含む)の防水工事となります。屋根防水などは既存の防水の上に新しい防水をかぶせるかぶせ工法が一般的ですが、開放廊下やベランダの長尺塩ビシートの場合は張り替えを行います。
その他工事
竣工前のクリーニングや、社会的劣化や機能的劣化に対するブレードアップ工事を行います。
12〜15年周期で実施するのが一般的
大規模修繕工事は、約12~15年で1回目を実施し、2回目を24~30年、3回目を36~45年で行います。それぞれ物理的劣化の箇所を中心に補修・修繕を行いますが、社会的劣化や機能的劣化の箇所についても必要に応じて改良や性能向上を図ります。
大規模修繕工事を先送りにするとどうなる?
大規模修繕工事を先送りすると、外壁や設備の劣化が進み、マンションの資産価値が低下します。また、劣化が進行すると補修だけでは対応できず、より大規模な修繕が必要となり、結果的にコストが増加します。特に防水や外壁の劣化を放置すると、雨漏りや構造の損傷につながり、居住環境にも悪影響を及ぼします。そのため、適切な時期に計画的な修繕を行うことが重要です。
大規模修繕 工事計画の流れは大きく以下の八つのステップに分かれます。
大規模修繕工事の
必要性を認識する
大規模修繕工事を円滑に進めるには、まず理事会や住民がその必要性を認識することが重要です。建物の劣化が進むと修繕費用が増加し、資産価値の低下につながるため、計画的な修繕が不可欠です。特に、外壁の劣化、設備の老朽化、バリアフリー化の必要性などを共有し、住民全体で理解を深めることが、合意形成と大規模修繕のスムーズな進行につながります。
専門委員会を
立ち上げる
大規模修繕工事は準備から完了まで2~3年かかるため、任期1年の理事会だけで進めるのは時間的にも労力的にも大変です。そこで、修繕委員会を設置し、工事が終わるまで専任で対応する体制を作ります。設置は工事開始の1~1.5年前が理想で、メンバーの中に建築に詳しい組合員がいるとスムーズに運ぶ傾向もありますが、一般的な組合員との構成バランスも大切です。この専門委員会があると、理事会の負担が減り、長期的な課題を見つけやすく、情報の引き継ぎもスムーズになります。
建物調査診断を
実施する
大規模修繕を進めるには、建物の劣化状況を正確に把握する調査診断が欠かせません。外壁のひび割れや鉄筋の腐食、タイルの浮きなどを詳しく調べ、適切な修繕方法を検討します。また、全戸アンケートを実施し、住民の意見や改善要望を収集。調査結果は報告書にまとめ、管理組合や住民に説明します。明確な根拠を示すことで合意形成がスムーズになり、計画的な修繕が実現します。
取り組み方を
選択する
大規模修繕工事の発注方式には、良く用いられるものに設計監理方式、責任施工方式、管理組合自主方式、管理会社活用方式の4つがあります。それぞれの特徴をよく理解し、状況に応じた最適な方式を選ぶことが大切です。
設計監理方式
設計監理方式は、透明性が高く、管理組合の負担が軽減される一方で、設計監理費がかかり、信頼できる会社の選定が難しいという課題があります。
責任施工方式
責任施工方式は、計画の一貫性が確保でき、施工業者の提案を比較できるメリットがある反面、見積もりの比較が難しく、業務負担が増えることがデメリットです。管理組合自主方式は、管理組合の希望を反映しやすく、同条件での見積もりが可能ですが、仕様作成や業者選びに手間と時間がかかる点が課題となります。
管理組合自主方式
管理組合自主方式は、管理組合の希望を反映しやすく、同条件での見積もりが可能です。仕様作成や業者選びに手間と時間がかかる点が課題となりますが、管理組合にその作業が可能な人材がいることが必須となります。
管理会社活用方式
管理会社活用方式は、専門部署が検討から竣工まで支援し、透明性を確保しつつ円滑に工事を進められます。アフター対応も管理会社がフォローします。ただし、サポート費用が発生し、工事保証は施工会社が負い、設計責任は含まれないため、工事品質の確認が重要となります。
※STEP5以降については、はじめての大規模修繕工事[第二回]以降で解説します。
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