プロに聞く 大規模修繕のツボ
大規模修繕工事の進め方
【 I 】 大規模修繕の必要性の認識
建物の経年劣化は避けられません。放っておくとマンションの美観や居住性を損ねることになります。 マンションの資産価値を維持する為には大規模修繕が必要となります。
では、大規模修繕工事とはそもそもどんな工事でしょうか?
修繕時期が多くの工事で重なり一般の年度より多額の修繕費が発生する年度に、まとめて実施する工事や、一つの工事でも修繕範囲が多岐にわたり多額の費用が発生する工事を大規模修繕工事と呼びます。具体的には、作業足場を建物の周囲に作り、主に外壁や金属部の塗装、防水工事などを行う一般によく知られている外装関係の大規模修繕工事や、給水管や排水管の取り替え工事などが相当します。
大規模修繕工事実施には2年程度の準備期間が必要です。
大規模修繕工事のおおよその時期の把握
おおよその時期を長期修繕計画から把握します。
《ポイント》
一般に長期修繕計画には、大規模修繕工事という名前の工事は存在しません。各年度の修繕費を比較し、突出して多い修繕費の年度が長期修繕計画で計画している大規模修繕工事の年度になります。項目で見ると、仮設工事や、給水管や排水管更新の工事費目がある年度となります。
長期修繕計画上の実施時期は、計画段階でのこれまでの修繕履歴や建物状態を考慮して目安として設定しているもので、建物の劣化状況はマンションによって異なります。
【 II 】工事を計画する体制の整備
専門委員会の立ち上げ
大規模修繕工事の計画には、多くの検討項目があり、それに費やす時間も長時間となります。また検討期間も工事実施まで含めると2年を超えるのが普通です。年度ごとに構成が変わる理事会では、理事会業務と大規模修繕工事の計画・実施業務両方をこなすことは困難です。理事会で大規模修繕工事の計画を開始することが決定されたら大規模修繕工事の専門委員会(修繕委員会など)を立ち上げます。
《ポイント1》
修繕委員には、建築や設備に明るい方や、過去の専門委員経験者が含まれると良いでしょう。
《ポイント2》
専門委員会はあくまで理事会の諮問機関であり、専門委員会での決定事項は、理事会で承認されてから総会に議案として上程されたり、実行されたりします。
【 III 】 取り組み方を選択
大規模修繕工事の取り組み方は大きく分けて3つあります。
〈 メリット 〉〈 デメリット 〉を良く理解した上で決定しましょう。
設計監理方式
(設計監理と工事を別の会社が担当する方式)
設計監理は管理組合の立場で大規模修繕工事の企画設計を行い、工事がしっかり行われているかを監理(チェック)します。
もっとも安心して取り組める方式ですが、設計監理費用が発生します。
《ポイント》
安心して任せられる設計監理会社(コンサルタント)であれば、設計監理費用がかかっても結果として低額で済ませられる場合もあります。
責任施工方式
(工事会社に調査診断・設計から工事まで全ておまかせにする方式)
管理組合としては、もっとも手のかからない方式ですが、工事会社におまかせなので、工事費用や品質が必ずしも担保されるとは限りません。
《ポイント》
責任施工方式を選定される場合、工事金額だけで選定すると追加工事や、工事後のアフターサービスを充分受けられずにかえって高くつく場合もあるので、安心して任せられる豊富な経験や実績と、提案力のある会社を選定しましょう。
管理組合自主方式
(管理組合が自身で建物の修繕範囲や修繕費用を決め、数量積算を行い、工事会社を選定する方式)
管理組合の業務負担が多大で、専門家が組合員にいる場合のみ可能です。専門家がいない場合、必ずしも費用面、品質面でのメリットがあるわけではありません。
《ポイント》
マンションの大規模修繕に精通した居住者がいることが条件となります。過去の専門委員会での経験は、大規模修繕工事の進め方に精通したという意味であって、修繕に精通しているとは必ずしも言えないことに注意が必要です。
【 IV 】 建物の調査診断を実施
工事範囲の設定や仕様設計には、建物の状況を知ることが必要で、そのための作業が調査診断です。
《ポイント》
タイルの浮きなどの劣化を手の届かない範囲まで全て調査することは費用と結果を考えるとお勧めできません(劣化数量は修繕した実数精算とするのが一般的です)。重要なのは、修繕方法を決めるために劣化の種類と程度を診断することです。
【 V 】 工事計画の作成・設計
調査診断の結果をふまえ修繕の大まかな基本計画からスタートし、本設計、工事の設計予算などの作成をします。管理組合の予算に合わせ、修繕仕様・工法の見直しも行います。
《ポイント》
予期せぬことや、新たに追加したい項目が発生することもあります。予備予算を10%程度確保しましょう。
【 VI 】工事会社選定
新聞広告や居住者からの推薦などで施工会社を募集し、同一の条件で工事見積を提出させます。そのうちから数社を絞り込み最終面接により工事会社を選定します。
《ポイント》
住まいながらの工事ですので、工事金額も重要ですが、工事担当者の人柄や、工事に対する提案なども選定のポイントになります。
【 VII 】 総会決議
工事会社と工事金額が決まれば、総会での承認を図ります。総会決議はたいていの場合普通決議(過半数の賛成)で決定します。総会決議が終わったら工事契約を結び、工事を開始することになります。
《ポイント》
専門委員会の設立、コンサルタントを選定する場合やその費用についても総会議案とします。