プロに聞く 大規模修繕のツボ
大規模修繕工事の着工から完工まで〈前編〉足場の設置〜洗浄工事
前回の本誌52号では、大規模修繕工事の工事契約の締結から各種手続きなどの着工前準備について、ご紹介しました。今回はいよいよ工事がスタート。工事工程のフローや作業内容などについてご説明します。
工事が着工すると月に1〜2回程度の修繕委員会による定例会議を開催し、懸案事項の検討や工程の確認、色決めなどを話し合いながら進めていきます。
1. 共通仮設の設置
共通仮設とはマンションの改修工事に直接関係しませんが間接的に必要な現場事務所、トイレ、道具洗い場、資材置場、職人さんの休憩所などのことをいいます。着工したら、まずこれらの共通仮設を工事説明会で説明した計画図に基づいて設置します。
2. 仮設足場の組立
妻壁(バルコニーのない端の外壁)、階段や手すりの外側など、足場なしでは作業できない場所での作業用に、仮設足場を組み立てます。
足場には「枠組足場」「単管足場」「ブラケット足場」「くさび緊結式足場」「移動昇降式足場(ワークプラットホーム)」「ゴンドラ足場」などがあり建物の規模や形状、階数、外壁から隣地境界までの距離、作業内容等を考慮して選定し、所轄の労働基準監督署に提出した仮設計画図に基づいて設置します。足場は工事中に台風がきても倒れないようにしっかり建物に固定します。足場の設置後、足場の周囲に飛散防止のためのメッシュシートを張ります。足場の下部には、安全や防犯上のため、鋼製の網(枠網)で周囲を囲い、足場内への出入りのための施錠できる扉を設置します。
《Point》
足場出入口付近や歩道に面した部分には、通行する人の安全を考えて落下養生をします。
3. 調査・下地補修工事
コンクリートやモルタル、タイルなどのひび割れ、コンクリートの爆裂(はく離)など躯体(下地)が傷んでいる部分の調査を行い、補修方法や範囲を検討します。ひび割れひとつとっても場所やひび割れ巾によって補修方法が違うように、劣化の種類ごとに補修方法が異なります。改修範囲全体を目視や、打検ハンマー、スケールなどを使用して劣化の状態を調査し、カラースプレーやテープなどで補修部分にマーキングします。マーキングの付け方や色によって補修方法が判る様になっており、マーキングに従って、補修工事を行うわけです。工区毎にマーキングを付け終わると、工事監理者(コンサルタント)がチェックし、了解を得た後に補修工事にとりかかります。
《Point》
下地補修工事が大規模修繕工事の中で最も重要な工事といえるでしょう。そのため、補修工事終了後に管理組合による中間検査を行うのが一般的です。
【お願い】
下地調査の開始日までに、バルコニーに置いてある植木や人工芝などの一時撤去をお願いします。詳しくは工事説明会資料に書いてあると思いますので、よく読んで工事説明会にはできるだけ出席しましょう。
4. シーリング打替え工事
コンクリートの打ち継ぎ部分や、コンクリートとサッシやドアの取り合い部分の多くには弾性シーリング材が充填され、防水機能などの役割を果たしています。劣化した古いシーリングをはがし取り、新しいものを充填する打ち替えがシーリング打替え工事です。
シーリング材が劣化すると部屋内への漏水につながることもあります。シーリング材の耐久性から考えると、雨が掛かり、シーリング材表面に塗装をしていない部分は、現時点でシーリング材が健全であっても打替えをした方がよいでしょう。
【お願い】
網戸がはまったままだと、シーリングの打替え工事や、窓周りの仕上げ工事がうまくできない場合があります。そのような場合には、工事会社から、網戸の取り外しと保管をお願いすることがあります。
5. 洗浄工事
建物の外壁は汚れています。たとえば餅とり粉の上につきたての餅を置いても下にくっつかないのと同様に、汚れたままの外壁に塗装しても塗料が下地に充分にくっつかず、塗料が剥がれやすくなる原因になります。そこで外壁や天井、床などを高圧水などで洗浄して汚れを除去します。
《Point》
タイル面は多くの場合洗浄して仕上がりとなるため、薬品を用いて洗浄することがあります。あまり強い薬品を使うと、汚れは落ちますが、タイルの艶を低下させたり植栽などに悪影響を及ぼすこともあります。試験施工をして適切な薬品を選定すると共に、薬品使用後の充分な水洗いが必要です。
【お願い】
外壁洗浄時に窓からの水の浸入を防ぐため、室内側のサッシのレール部分に雑巾などを敷いてください。また、バルコニー側での作業によっては、物干しが制限されることがあります。工事会社からのお知らせは、しっかり確認しましょう。