プロに聞く 大規模修繕のツボ
調査診断の必要性
何が必要なのか、何のために診断するのか

調査診断の目的

区分所有者全員に大規模修繕工事の必要性を認識してもらう

 本誌47号から始まったこのコーナーを読んでいただいている読者の方は、大規模修繕の必要性をご理解いただいていると思います。しかし、多くの方は高額の修繕積立金を使う大規模修繕工事に対し抵抗があると思います。
 後にトラブルの種を残さないよう区分所有者全員に大規模修繕工事の必要性を認識してもらうことが必要です。そのためには調査診断を行い、きちんとした根拠を提示することが大切です。これが調査診断の目的の一つです。

《ポイント “なるほど” 》
大規模修繕工事を1回でも経験したマンションは比較的区分所有者の合意は取りやすいのですが、これから第1回目の大規模修繕を計画しようとする管理組合にとって、区分所有者全員に大規模修繕の必要性を認識してもらうことが最も重要な目的になります。

大規模修繕のためのカルテと処方箋

 皆さんのマンションでは、管理会社が何らかの点検を行っていると思います。いわゆる「点検」と「大規模修繕の為の調査診断」とは何が違うのでしょうか?
 「点検」は、劣化や故障している箇所の指摘と補修を提言するにとどまります。一方「大規模修繕の為の調査診断」は、同じひび割れでもコンクリートの耐久性能上有害なひび割れなのかどうか、なぜひび割れが生じたのかなど多角的に調査し判断します。
 仮に単純な経年劣化によるものではないひび割れと判断した場合は、その原因の解消を視野に入れた修繕方法を検討することで、同様のひび割れの再発を防ぐことができ、効果的な大規模修繕につなげることができます。医者が患者の病気を診察し、カルテや処方箋を書くのと同様に建物の劣化を診断し改善方法を考えるのが調査診断です。

調査診断の方法

過去の修繕履歴を参考に!

 事前調査として、新築時の設計図書や過去の修繕履歴の調査を行います。どんな構造や仕様で建物が造られているのか、いつ頃、どこに、どんな不具合が発生し、どういう直し方をしたのか、過去の見積書や報告書などを調べます。これはたとえばカルテのようなもの。これから実施する調査診断や、その後の大規模修繕工事の設計の参考になります。

《たとえば…》
今塗られている塗料と、これから塗る塗料との間で相性が悪いものもあり、しばらくしたら剥がれてしまうものもあります。過去の履歴を知らないで設計すると、後々不具合が発生することがあります。

全戸アンケートで住民の意見を収集!

 ベランダやバルコニーの調査診断は、一部の住戸に対する立ち入り調査にあわせ、全戸アンケート調査を行い、劣化状況を申告してもらいます。また、マンションをより住みやすくする為、グレードアップなどの改善に関する意見や情報も収集します。

《ポイント “少数派でも大丈夫…” 》
アンケート調査の結果、改善要望が数戸程度の意見であっても、専門家の立場で将来的に必要性があると判断した場合には、管理組合に改善提言を行います。

見る、触る、たたく、様々な方法で診断!

 仕上げ材や躯体のひび割れ、コンクリートの爆裂・剥離やタイルの浮きなどの劣化の症状をクラックスケールや打診検査棒などを使い、目視や触診(打診)により念入りに調査します。また塗装面は塗膜付着力試験、コンクリート躯体はコンクリートの中性化深度測定、設備系では、給排水管の一部を切り出して行う抜管・内視鏡検査など、診断対象ごとに、わずかな破壊を伴う微破壊検査も採用します。

《ポイント》
塗装面では、塗料が下地にしっかり付着しているかを調べる目的で、塗膜の付着強度試験を行います。塗料がしっかり付着していない場合は、現在の塗料を全て剥がしてから新たに塗装することになります。
コンクリートは元々高いアルカリ性ですが、空気中の炭酸ガスなどにより表面から徐々に中性に近づいていきます。鉄筋の周囲が中性になると鉄筋は錆びやすくなり、腐食すると鉄筋コンクリートの強度の低下につながります。そのため、コンクリートの中性化深度の測定を行います。

報告書の作成と報告

 調査診断結果の報告書は、①マンションや調査診断の概要、②部位別の目視・触診による調査結果(部位別所見)、③微破壊検査などの試験結果、④ ①〜③をまとめて全体像を述べる総合所見、⑤ 調査写真、⑥劣化調査図や劣化数量表、⑦アンケート結果、⑧修繕の工法や改良・改善の提案、などで構成されます。

《ポイント “むだな調査はやめよう!” 》
劣化数量は調査した範囲での数字です。タイルの浮きなどを手の届かない範囲まですべて調べるのは足場やゴンドラ費用を含め多額の費用が掛かります。いずれにせよ、大規模修繕工事の時には足場を組んで全面調査をして補修範囲を決めます。コンクリートやタイルの補修費用は、掛かっただけ費用を支払う実数精算というやり方が一般的です。補修予算とのぶれは多少ありますが、多額の費用を掛けて事前に全面調査するよりも遙かに少額で済みます。従って大規模修繕工事を前提とした調査では、多額の費用を掛けて精度の高い劣化数量を調べるより、むしろ劣化の種類とその原因やその程度を正確に調べることの方が重要です。

修繕委員会に報告

 報告書は修繕委員会や管理組合理事会などに提出。より理解を深めるため、場合によっては全区分所有者を対象にした説明会を開催します。

 

 

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